・・・ 更に、べつの皮肉屋の言うのには、「七月一日から煙草が値上りになるのは、たびたびの盗難による専売局の赤字を埋めるためだ」と。 それほど盗難が多いし、また闇商人が語っているように、横流しが多いのだ。そして、それが闇市場でまるで新聞・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・何しろ、十五年前なら八十五円に当る千八百円ベースというもので、とどめをさされた収入なのに、物価は丸公の値上りで、あがる一方の一年でした。国民所得を戦前の百倍として、税は百二十六倍払わなければならず、経済安定本部の数字によれば、それでも去年十・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・紙が闇で、それは刻々に値上りし、紙のタヌキ御殿が出現して新聞を賑わす有様は、出版の自由がどんなに歪み、単に営利化されているかという事実を表明している。一頁あたりの闇紙が高価ならば、その一頁からうんと儲けなければならないのが、資本主義の出版企・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・息子に投資して値上りを待っていたら突然ガラを食ったというようなものでしょう。」 地道な子を育てようとして、そう行かなかったとしてそれは母だけの罪ではないことを作者は認めている。子供のことはもう家庭の中でだけ解決した時代が過ぎた。そのこと・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・切手のねだんは、いつも物価の値上りの一歩ずつあとを追ってたかくなった。封書へはる一枚の切手の値があがることは、既に生計費がその幾層倍かの率で高価になっていることを示したし、同時にそれは、日本の権力者たちが、ますます内実の苦しい、勝味のない侵・・・ 宮本百合子 「郵便切手」
・・・配給になった米は、今度から約三倍の値上りをした。町会費も、今月から三倍になった。省線に乗ったらば、二十銭区間が四十銭になり、三円の回数券は、九円である。闇市場では、ミカンや汁粉は、とぶようにうれて、やすいものは売れないと、新聞は報じている。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫