・・・私が東京の大学へはいって、郷里の先輩に連れられ、赤坂の料亭に行った事があるけれども、その先輩は拳闘家で、中国、満洲を永い事わたり歩き、見るからに堂々たる偉丈夫、そうしてそのひとは、座敷に坐るなり料亭の女中さんに、「酒も飲むがね、酒と一緒・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・ 六尺ちかい偉丈夫も、ほとんど泣かんばかりである。理由はどうあろうとも、旗色の悪いほうに味方せずんばやまぬ性癖を私は有っている。私は或る日、三田君に向ってこう言った。「人間は真面目でなければいけないが、しかし、にやにや笑っているから・・・ 太宰治 「散華」
・・・やさ男どころか、或る神学者の説に依ると、筋骨たくましく堂々たる偉丈夫だったそうではないか。虫も殺さぬ大慈大悲のお釈迦さまだって、そのお若い頃、耶輸陀羅姫という美しいお姫さまをお妃に迎えたいばかりに、恋敵の五百人の若者たちと武技をきそい、誰も・・・ 太宰治 「花吹雪」
出典:青空文庫