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・・・はて法会の建札にしては妙な所に立っているなと不審には思ったのでございますが、何分文字が読めませんので、そのまま通りすぎようと致しました時、折よく向うから偏衫を着た法師が一人、通りかかったものでございますから、頼んで読んで貰いますと、何しろ『・・・
芥川竜之介
「竜」
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・・・律師は偏衫一つ身にまとって、なんの威儀をも繕わず、常燈明の薄明りを背にして本堂の階の上に立った。丈の高い巌畳な体と、眉のまだ黒い廉張った顔とが、揺めく火に照らし出された。律師はまだ五十歳を越したばかりである。 律師はしずかに口を開いた。・・・
森鴎外
「山椒大夫」