・・・同時に詩および詩人に対する理由なき優待をおのずから峻拒すべきである。いっさいの文芸は、他のいっさいのものと同じく、我らにとってはある意味において自己および自己の生活の手段であり方法である。詩を尊貴なものとするのは一種の偶像崇拝である。 ・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・時代の風潮は遊廓で優待されるのを無上の栄誉と心得て居る、そこで京伝らもやはり同じ感情を有して居る、そこで京伝らの著述を見れば天明前後の社会の堕落さ加減は明らかに写って居ますが、時代はなお徳川氏を謳歌して居るのであります。しかし馬琴は心中に将・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・ 帝室より私学校を保護し、学者を優待するは、学問の進歩を助くるのみならず、我が国政治上に関しても大なる便益を呈することならん。そもそも文字の意味を広くしていえば、政治もまた学問中の一課にして、政治家は必ず学者より出で、学校は政談家を生ず・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・「これでは余り優待せられると云うものではないな。もうかれこれ二十分から待たせられている。どうしたと云うのだろう。事によったら馬鹿な下女奴が、奥へ通さずにしまったのではないかしら。とにかくまあ、待っているとしよう。や、来たな。」最後の一句は廊・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・は全体、人間の味方なはずですが、ちかごろは、どうも毎日の新聞にさえ、猫といっしょにお払い物という札をつけた絵にまでして、広告されるのですし、そうでなくても、元来人間は、この針金のねずみ捕りを、一ぺんも優待したことはありませんでした。ええ、そ・・・ 宮沢賢治 「ツェねずみ」
・・・とても日本人を優待するよ。特別あすこは軍人がもてるからね」 だが、わたしはどんな駐在武官の細君でもない。思いがけないおついしょうにびっくりして、手にもっていた小さいハンカチーフを絨毯の上へ落した。すると、お菓子のような将校は、いとも優雅・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
・・・そして殉死者の遺族が主家の優待を受けるということを考えて、それで己は家族を安穏な地位において、安んじて死ぬることが出来ると思った。それと同時に長十郎の顔は晴れ晴れした気色になった。 四月十七日の朝、長十郎は衣服を改めて母の前に出て、・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫