・・・「うまい。」 と言った。 清酒と同様に綺麗に澄んでいて、清酒よりも更に濃い琥珀色で、アルコール度もかなり強いように思われた。「優秀でしょう?」「うむ。優秀だ。地方文化あなどるべからずだ。」「それから、先生、これが何だ・・・ 太宰治 「母」
・・・換言すれば映画芸術の要素としての律動的要素の優秀なるできばえである。従って一つの楽曲のおもしろさを貧弱な人間の「言葉」と名づける道具で現わすことが困難であると同様にこの映画の律動的和声的要素の長所を文字の羅列で置き換えようとすることは、始め・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・例えば動物園へ子供を連れて行って子供に実際の河馬を見せるのと優秀な教育映画の河馬を見せるのと、どう違うかという問題を考えてみる。ちょっと考えただけでは動物園の実物の方がよさそうに思われるであろうが、実は必ずしもそうでないのである。河馬と言う・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・名医はすなわちもっとも優秀な造化の助手であるかと思われる。 肉体における医者に相当して、精神の医者もあるはずである。そういう医者に名医ははなはだまれなように見受けられる。精神の胃が悪くて盛んに吐きけのある患者に無理に豚カツを食わせてみた・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・生まれた時からだれにも教わらずに役立つ最も鋭敏な優秀な器械を備えているのである。左右の羽根の刺激の不平均のために、無意識に自動的に羽根の動きの不平均が起こって、結局左右が平均するまでからだを回転させ、そうして刺激を増大するような方向に進行さ・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・これらの場合に充分な気象観測の材料が備わっていて優秀な気象学者がこれに拠って天候を的確に予報する事が出来れば如何に有利であるかは明らかである。 また一例を挙げると、三月十六日パレスタインで強風が砂塵を立てているに乗じてトルコの駱駝隊を襲・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・書画骨董と称する古美術品の優秀清雅と、それを愛好するとか称する現代紳士富豪の思想及生活とを比較すれば、誰れか唖然たらざるを得んや。しかして茲に更に一層唖然たらざるを得ざるは新しき芸術新しき文学を唱うる若き近世人の立居振舞であろう。彼らは口に・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・我々の背後にはただ他より優秀なる鑑賞力と、他より超越せる判断力があるのみで、単にこれがためにわが言辞にそれ相応の権威を生ずるのである。 この権威を最後最上の権威であれかしと冀うのは、我々の欲望であって、一般に通ずる事実ではない。これを事・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・単に蒐集狂という点から見れば、此煙管を飾る人も、盃を寄せる人も、瓢箪を溜める人も、皆同じ興味に駆られるので、同種類のもののうちで、素人に分らない様な微妙な差別を鋭敏に感じ分ける比較力の優秀を愛するに過ぎない。万年筆狂も性質から云えば、多少実・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
文化の発展には民族というものが基礎とならねばならぬ。民族的統一を形成するものは風俗慣習等種々なる生活様式を挙げることができるであろうが、言語というものがその最大な要素でなければならない。故に優秀な民族は優秀な言語を有つ。ギリシャ語は哲・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
出典:青空文庫