・・・ みんなもすっかり元気になってついて行きました。「だれだ、時間にならないに教室へはいってるのは。」一郎は窓へはいのぼって教室の中へ顔をつき出して言いました。「お天気のいい時教室さはいってるづど先生にうんとしからえるぞ。」窓の下の・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ やがて、赤い布で凜々しく髪を包んだ二十二三のこれも元気な婦人労働者が、何冊もの本を小脇にかかえて入って来た。「――図書室の本が、まだモスクワから届かないんだってさ。手紙をやりましょうね」「お客さんよ」 その文化委員の婦人労・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・どの顔も蒼ざめた、元気のない顔である。それもそのはずである。一月に一度位ずつ病気をしないものはない。それをしないのは木村だけである。 木村は「非常持出」と書いた札の張ってある、煤色によごれた戸棚から、しめっぽい書類を出して来て、机の上へ・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ そう勘次が静に云うと、安次は急に元気な声で早口に、「すまんこっちゃ、すまんこっちゃ。」 と云いながら続けさまに叩頭した。勘次は落ちつけば落ちつく程、胸の底が爽やかに揺れて来た。が、秋三は勘次の気持を見破ると、盛り上って来た怒り・・・ 横光利一 「南北」
・・・ あの日は寺田さんは非常に元気であった。電車へ飛び込んで来られる時などはまるで青年のようであった。自分などよりもよほど若々しさがあると思った。その後一月たたない内に死の床に就かれる人だなどとはどうしても見えなかった。これから後にも時々あ・・・ 和辻哲郎 「寺田さんに最後に逢った時」
出典:青空文庫