・・・烏の大尉は先登になってまっしぐらに北へ進みました。 もう東の空はあたらしく研いだ鋼のような白光です。 山烏はあわてて枝をけ立てました。そして大きくはねをひろげて北の方へ遁げ出そうとしましたが、もうそのときは駆逐艦たちはまわりをすっか・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・地学博士を先登に、私たちは、どやどや、玄関へ降りて行きました。たちまち一台の大きな赤い自働車がやって来ました。それには白い字でシカゴ畜産組合と書いてありました。六人の、髪をまるで逆立てた人たちが、シャツだけになって、顔をまっ赤にして、何か叫・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・殉死の先登はこの人で、三月十七日に春日寺で切腹した。十八歳である。介錯は門司源兵衛がした。原田は百五十石取りで、お側に勤めていた。四月二十六日に切腹した。介錯は鎌田源太夫がした。宗像加兵衛、同吉太夫の兄弟は、宗像中納言氏貞の後裔で、親清兵衛・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・彼はその銃を拾い上げると、先登を切って敵陣の中へ突入した。彼に続いて一大隊が、一聯隊が、そうして敵軍は崩れ出した。ナポレオンの燦然たる栄光はその時から始まった。だが、彼の生涯を通して、アングロサクソンのように彼を苦しめた田虫もまた、同時にそ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫