・・・尤も主婦がこの娘に対すると先達て生れた妹の利ちゃんに対するとその間に何のちがいも自分には認められなかったとは云え。 主婦は親切であったが、色の蒼白い、眉の間には始終憂鬱な影がちらついて、そして時々工合が悪いと云っては梯子の上り下りの苦し・・・ 寺田寅彦 「雪ちゃん」
先達て「リビヤ白騎隊」というイタリー映画の試写を観る機会を得た。原作はフランスのジョセフ・ペイレのゴンクール受賞作品だそうで、ファッショ紀元十五年度のムッソリーニ賞杯獲得映画である。筋は単純なものである。クリスチアーナとい・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ 印象の種類から云えば、まるで其等のものとは異いますが、先達て中、二科にあった「懶画房」? と云う絵。あれが時々思い出されます。あの画面に漲っていた傷心の感、自分が時に苦しむ或る気分が、不思議に柔かい黄色帽となって、椅子にとまった瘠男の・・・ 宮本百合子 「外来の音楽家に感謝したい」
・・・ 直接この話と関係はないが、先達て汽車の中で隣席の男が大きな声で、いやア、あの男はやりおる。何しろ君、工場の主だった者あ毎晩のように芸者買いさせとるんだから、と云った。するとその連れが、疑わしげにニヤニヤしながら、土台本人が好きなのさ、・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ 先達てうち、再び散文精神ということがとりあげられた。それは要するにその点の再吟味であり、散文精神が今日の文学の受動性の枠づけとならぬよう、文学のリアリティーを風俗小説の範囲にとじこめぬよう、そのことが論ぜられたのであったと思われる。・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・つい先達てまで日本の農民は平均一戸当り一万円近い現金を保有しているということが報ぜられている。それで農村婦人の生活は、本質的に幸福になっているのだろうか。都会の勤労婦人に比べて、農村の婦人は食物は豊富であろうし、焚物も豊富であろうし、物と交・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫