・・・毎月八日の武運長久の祈願には汝等と共に必ず参加申上候わずや、何を以てか我を注意人物となす、名誉毀損なり、そもそも老婆心の忠告とは古来、その心裡の卑猥陋醜なる者の最後に試みる牽制の武器にして、かの宇治川先陣、佐々木の囁きに徴してもその間の事情・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・その時も、末弟は、僕にやらせて下さい僕に、と先陣を志願した。まいどの事ではあり、兄姉たちは笑ってゆるした。このたびは、としのはじめの物語でもあり、大事をとって、原稿用紙にきちんと書いて順々に廻すことにした。締切は翌日の朝。めいめいが一日たっ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・わたくしは日和下駄をはいて墓さがしをするようになっては、最早新しい文学の先陣に立つ事はできない。三田の大学が何らの肩書もないわたくしを雇って教授となしたのは、新文壇のいわゆるアヴァンガルドに立って陣鼓を鳴らさせるためであった。それが出来なく・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
出典:青空文庫