・・・尤も電波とは云ってもそれは今のラジオのような波長の長い電波ではなくて、ずっと波長の短い光波を使った烽火の一種であるからそれだけならばあえて珍しくない、と云えば云われるかもしれないが、しかしその通信の方法は全く掛け値なしに巧妙なものといわなけ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ このような塵に太陽から来る光波が当れば、波のエネルギーの一部は直線的の進行を遮られて、横の方に散らされる。丁度池の面に起った波の環が杭のようなものにあたったとき、そこから第二次の波が起ると同じ訳である。それがために、塵は光の進行を妨げ・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・しかるに〇・五ミクロンはもはや黄色光波の波長と同程度で、網膜の細胞構造の微細度いかんを問わずともはなはだ困難であることが推定される。 視覚によらないとすると嗅覚が問題になるのであるが、従来の研究では鳥の嗅覚ははなはだ鈍いものとされている・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・○緑色と卵色の縞のブラインドのすき間からは、じっと動かない灯と絶えず揺れ動く暖炉の焔かげとが写り、時に、その光波の真中を、若い女性らしい素早い、しなやかな人かげが黒く横切った。○子供は、両端の小さくくれたくくり枕のような体を・・・ 宮本百合子 「結婚問題に就て考慮する迄」
・・・もっと、事象を歴史の上に射透す精神の光波をさすべきであろう。明暗をひっくるめてその関係の生きて動きつつあるそのものを、よりひろいより大きい時間と空間との中に再現したとき、人間は常に進歩を欲しているものだがまた常にそれは矛盾におかれている、そ・・・ 宮本百合子 「文学は常に具体的」
出典:青空文庫