・・・わたしたちは、克服しなければならないおびただしい不幸と偽瞞との中に生きて、それとたたかっているのだから。そして、文学の作品とそのつくりてである作家とは、明日の可能に向って、最も重大な責任を帯びる立場に立たされている。文学は、今日もう単なる個・・・ 宮本百合子 「あとがき(『作家と作品』)」
・・・最悪な人民経済の事情から女性は家庭からどしどしはたき出されているのに、生活を求めて女性がたたかってゆく社会では、昔ながらの封建性が克服されていないばかりか、数年前には知られなかった複雑微妙な堕落のモメントが、女性の一歩一歩に用意されてある。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・からの脱却、伝統的な主情性の克服の可能も、文学が人民のリアリスティックな発展の可能性とそのための多種多様な行為とともにあってはじめて見出されるのである、と。この場合、国際的なプロレタリア文学運動が、二十世紀の世界文学の一発展としてもたらした・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・当惑と一種の焦慮とをもって問題はおこっていて、一つこの矛盾を大いに克服しようではないか、そのためにはわれらの置かれている現実をまず分析しよう、討議しよう、さあ……諸君! という、気組みの引立ちが欠けている観がある。 特に率直にいえば、一・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ こういう工場内の悪質な分子を、労働者出の管理者及び彼を支持する労働者群がどんな困難を経て、克服して行くかといういきさつは、キルションの有名な戯曲「レールは鳴る」にもよく表現されている。 インガ・リーゼルが、知識階級から出た、教育と・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・を歴史の眼によって抱きとることも出来ず、克服することも不可能であった。主観は主観の無限地獄を掘り穿って、そこに彼の犀鋭な精神は没入し去ってしまったのであった。 芥川龍之介の歴史に対する態度、それが彼の人及び芸術家としていかなる必然に立っ・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・蓊助君は、漫画修行による人生観察の過程で、旧套の重荷に反撥して自らを破ることが、新世代にのしかかる圧力を克服することではないことを、既に学んでいるであろう。昨今の世界情勢の中を行く旅行について父藤村氏の「自由主義的慧眼」に希望している希望に・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・らゆる進歩的なインテリゲンツィアと勤労者に、その敗因が全くひとごとではない連帯的な現実の中にあるということを、芸術の息吹によって深く感じさせるべき義務を果して得ていないところに、その努力によって敗因を克服する意志をふるい立てぬところにあると・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・自分たちの不幸を底まで理解して、それを堅忍し、克服してゆく気魄がなければ、幸福感を味うことができにくい時代に来ているのである。破壊の行われているときにもやはり人類の幸福のために続けられている努力があって、それはどこにどんなに行われているかと・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・ 何故なら、新しい歴史的世代がそれぞれの事情の中で、どうしても経て克服してゆかなければならない困苦、艱難の形は、他のより進んだ事情にあるところと比べて見れば、そこではもう過去になっている犠牲、献身、努力の形態をもって現れて来るのである。・・・ 宮本百合子 「「ゴーリキイ伝」の遅延について」
出典:青空文庫