・・・が、同時に入露以前から二、三の露国革命党員とも交際して渠らの苦辛や心事に相応の理解を持っていても、双手を挙げて渠らの革命の成功を祝するにはまた余りに多く渠らの陰謀史や虐殺史を知り過ぎていた。 二葉亭の頭は根が治国平天下の治者思想で叩き上・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・宿帳には下手糞な字で共産党員と書き、昨日出獄したばかりだからとわざと服装の言訳して、ベラベラとマルキシズムを喋ったが、十年入獄の苦労話の方はなお実感が籠り、父親は十年に感激して泣いて文子の婿にした。 所が、男は一年たたぬうちに再び投獄さ・・・ 織田作之助 「実感」
・・・ところが、党員が出て来ていうのには、「野坂氏は多忙で誰とも会いません。用件は私が伺いましょう」 用件はなかった。すごすご帰る道、仙台に板垣退助の娘がいることを耳にした。板垣退助こそ民主主義である。彼は仙台へ行った。宿につき女中にきく・・・ 織田作之助 「民主主義」
・・・だろうか、Pの人だろうか、Yだろうか、それとも党員だろうか……?――秋深く隣は何をする人ぞ。 扉が突然ガチャン/\と開いた。「どっこいしょ!」 蒲団をかづいできた雑役が、それをのしんと入口に投げ出した。汗をふきながら、「こん・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・私は社会党の右派でも左派でもなければ、共産党員でもない。芸術家というものだ。覚えて置き給え。不潔なごまかしが、何よりもきらいなんだ。どだい、あなたは、なめていやがる。そんな当りさわりの無い、いい加減な事を言って、所謂民衆をなだめ、納得させる・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・お民の態度は法律の心得がなくては出来ないと思われるほど抜目がなく、又其の言うところは全然共産党党員の口吻に類するものがあった。 書肆博文館が僕に対して版権侵害の賠償を要求して来た其翌日である。正午すこし前、お民は髪を耳かくしとやらに結い・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・お母さんの方は代議員だし、オーリャは党員候補です」 ソヴェト同盟の工場では五人に一人ぐらいの割合で婦人労働者の間から代議員というのを選んでいる。これは党員ではないが、ソヴェト同盟がプロレタリア・農民の国であり、社会主義の社会を建設してゆ・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ナチスは、その火事を機会として、ドイツ中の共産党員、社会主義者、民主論者、平和論者、自由主義者、ユダヤ人の大量検挙をはじめたのであった。ヒトラーの手先がミュンヘンにも入ってきて、公共建物のすべての屋根に気味わるい卍の旗がひるがえることになっ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 三鷹事件は、数名の共産党員を検挙して、その中に真犯人があるように宣伝されています。しかし、次の事実は事件の核心に関係しているにもかかわらず、商業新聞には発表されていません。それはこういう事実です。事件当夜、立川市の警察署長は立川国警か・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・食堂でよく会う黒人党員がいつも一緒なロシア婦人党員と白い息をハーハーふきながら愉快この上ない顔つきで散歩している。一行はドイツ人もアメリカ人も混って、食事の時は婦人党員がドイツ語、英語、ロシア語でやっているのだ。(モスクワを立つ前、こんな事・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫