・・・深い洞察、愛のこもった分析、公平な作家的批判、その全幅を傾けて居り愉快です。木星社から出た本[自注15]が三版目になりこの秋か冬出ます。後書を発展的な見地に立って私が自身の名でかくつもりです。私はもうその位の経験は積ねていると信じて居ります・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・それらの文学愛好者達は、発表の機会を考えてそこに集り、だが必ずしもその統率者に対して人間及作家としての尊敬を全幅的に捧げているとは限らない。或る場合には自分の本性と反撥するものをも感じつつ尚悲しき利害から毅然たる態度も示しかねる自分に自嘲を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 文学において、創作の方法というものは、何とまざまざとその作家の社会的で芸術的な生きかた全幅を示すものであろうかということも、興味ふかく考えさせられる。例えば今日云われている農民文学というものの在りようについて、又、読者としてあらわれて・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ シラノ・ド・ベルジュラックを白野弁十郎として演じたのは、沢正一代の傑作であり、特質を全幅に活かしたものであったろうが、母もその頃は、お孝さんの傾倒に十分の同感をもつようになっていた。 段々接触が多くなるにつれ、お孝さんは母のいいと・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・ 二 第二次世界大戦に際して、ソヴェト同盟の市民は、最近十数年間に高められた彼らの能力の全幅を世界に実証した。ソヴェト同盟に向けて計画された出血の諸企図は、ついにこの国の社会生活を貧血死に導くことができなか・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・――そんな意味で、ひとりでに、極自由な、溌溂と全幅の真面目を発揮する氏の風貌に接する機会のなかったのは残念であった。〔一九二五年十二月〕 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・花咲き溢るる女らしさの全幅をもって経済的にも精神的にも生き貫いて行くことを欲している。訳書の前がきの言葉にある通り「女子が活溌な生産的労働や仕事にたずさわって」所謂「貴女達を包む弱々しい女性らしさとは全く別性質の」美しい自他ともに幸福な「独・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
「吾輩は猫である」が明治三十八年に書かれてから、「明暗」が未完成のままのこされた大正五年まで、十二年ほどの間に漱石の文学的活動は横溢した。円熟した内面生活の全幅がこの期間に披瀝されたと思う。同時に、作品のどれもが、人生と芸術・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・この十年ばかりは、友達の価値を全幅的に知りながらの生活である。そして、そのような十年ばかりの間に、古い昔のおだやかな友情にも、一味新たな内容が加えられて、どこやらゆたかに咲きかえった有様であることも、まことに興味ふかい。 それに私は、境・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・ 或る人々は、プロレタリア作品がこのように内包しているプロレタリア性というものに我から全幅の信頼をかけ、その仕事にたずさわっている自身をも比較的手軽くプロレタリア・インテリゲンツィアという風に規定して、自分たちがそのようなものであり、プ・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
出典:青空文庫