・・・ 其れ故若し彼が真個の全快を希望したなら恐らく彼はだれでもと同様に子供の様になりながらじいっと一枚一枚繃帯の薄れて行くのを楽しみにして居た事であろう。 子供らしいと云われる事かも知れないが必ず左様あるべきなのである。 其れを苦し・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・「ご病気はいかにもご重体のようにはお見受け申しまするが、神仏の加護良薬の功験で、一日も早うご全快遊ばすようにと、祈願いたしておりまする。それでも万一と申すことがござりまする。もしものことがござりましたら、どうぞ長十郎奴にお供を仰せつけら・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 病人は恐ろしい大量の Chloral を飲んで平気でいて、とうとう全快してしまった。 生理的腫瘍。秋の末で、南向きの広間の前の庭に、木葉が掃いても掃いても溜まる頃であった。丁度土曜日なので、花房は泊り掛けに父の家へ来て、診察室の西・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫