・・・竹馬の友の万年博士は一躍専門学務局長という勅任官に跳上って肩で風を切る勢いであったから、公務も忙がしかったろうが、二人の間に何か衝突もあったらしく、緑雨の汚ない下宿屋には万年博士の姿が余り見えなかった。何かにつけて緑雨は万年博士を罵って、愚・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・ 平松から大谷の町へかけて被害の最もひどい区域は通行止で公務以外の見物人の通行を止めていた。救護隊の屯所なども出来て白衣の天使や警官が往来し何となく物々しい気分が漂っていた。 山裾の小川に沿った村落の狭い帯状の地帯だけがひどく損害を・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・一方ではまた当時の自由党員として地方政客の間にも往来し、後には県農会の会頭とか、副会頭とか、そういう公務にもたずさわっていたようであるが、そういう方面の春田居士は私の頭にほとんど残っていない。 わくに張った絵絹の上に山水や花鳥を描いてい・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・けれどもどうでしょうこういう軍人教育者実業家などが公務をしまって家へ帰ってさあこれからがおれの身体だという場合に、やはり同じような窮屈極まる生活に甘んずるでしょうか。人によっては寝食の時間など大変規則正しい人もあるかも知れないが、原則から云・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・記者は封建時代の人にして、何事に就ても都て其時代の有様を見て立論することなれば、君臣主従は即ち藩主と士族との関係にして、其士族たる男子には藩の公務あれども、妻女は唯家の内に居るが故に婦人に主君なしと放言したることならんか。若しも然るときは百・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・これを譬えば、毒物を以て直にこれを口に喰らわしめずして、その毒を瓦斯に製し空気に混じて吸入せしむるが如し。これを無情といわざるを得んや。鬼蛇の名称差支なかるべし。 また一種の主人あり。これを公務家と名づく。甚だしき遊蕩の沙汰は聞かれざれ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
出典:青空文庫