・・・と彼の暗記しおる公報の一つ、常に朗読というより朗吟する一つを始めた、「敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊は直ちに出動これを撃滅せんとす、本日天候晴朗なれども波高し――ここを願います、僕はこの号外を読むとたまらなくうれしくなるのだから――ぜひこ・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・同年十二月死去の公報によって葬儀を営んだ。十月十日に網走刑務所から解放されて十二年ぶりで東京にかえった顕治と百合子が式に列した。[自注12]国男夫婦――百合子の弟夫婦。[自注13]林町の母――百合子の実母。葭江。一八七六年―一九三四・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・戦争中、何年も前線におかれた夫と、故国にのこされた妻との間には、夫が帰還してはじめて問題化するような多種多様な悲劇がかもされている。公報で戦死したものとされた夫が帰ってみれば、妻は弟と結婚していた、というような実例は、まだまだひとにも話せる・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫