・・・びに汝の家庭、汝の村、汝の国、否全世界が救われるであろうと、大見得を切って、救われないのは汝等がわが言に従わないからだとうそぶき、そうして一人のおいらんに、振られて振られて振られとおして、やけになって公娼廃止を叫び、憤然として美男の同志を殴・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・ 吉原の遊里は今年昭和甲戌の秋、公娼廃止の令の出づるを待たず、既に数年前、早く滅亡していたようなものである。その旧習とその情趣とを失えば、この古き名所はあってもないのと同じである。 江戸のむかし、吉原の曲輪がその全盛の面影を留めたの・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・吉原の公娼制度が廃止されることは、健全な結婚の可能性が我々の生きる今日の社会条件の中に増大されたのではなくて、多額納税議員をもその中から出している女郎屋の楼主たちが、昨今の情勢で営業税その他を課せられてまでの経営は不利と認めたからである。・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫