・・・どう云うものか公爵や侯爵は余り小説には出て来ないようです。 保吉 それは伯爵の息子でもかまいません。とにかく西洋間さえあれば好いのです。その西洋間か、銀座通りか、音楽会かを第一回にするのですから。……しかし妙子は――これは女主人公の名前・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
一 何公爵の旧領地とばかり、詳細い事は言われない、侯伯子男の新華族を沢山出しただけに、同じく維新の風雲に会しながらも妙な機から雲梯をすべり落ちて、遂には男爵どころか県知事の椅子一にも有つき得ず、空しく・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・記者というものは柄が悪い、と世間から言われているようですけれども、大谷さんにくらべると、どうしてどうして、正直であっさりして、大谷さんが男爵の御次男なら、記者たちのほうが、公爵の御総領くらいの値打があります。大谷さんは、終戦後は一段と酒量も・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・AMADEUS HOFFMANN 路易第十四世の寵愛が、メントノン公爵夫人の一身に萃まって世人の目を驚かした頃、宮中に出入をする年寄った女学士にマドレエヌ・ド・スキュデリイと云う人があった。「労働」KARL SCHOENHERR・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ムイシュキン公爵の言葉である。恋を失ったときには、どう言うであろう。そのときには、口に出しては言わぬ。胸のなかを駈けめぐる言葉。「だまって居れば名を呼ぶし、近寄って行けば逃げ去るのだ」これはメリメのつつましい述懐ではなかったか。夜、寝床にも・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・ 公爵のシャトーの中のかび臭い陰気な雰囲気を描くためにいろいろな道具が使われているうちに、姫君の伯母三人のオールドミスが姫君の病気平癒を祈る場面がある。それが巫女の魔法を修する光景に形どって映写されているようであるが、ここの伴奏がこれに・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・沙翁はクラレンス公爵の塔中で殺さるる場を写すには正筆を用い、王子を絞殺する模様をあらわすには仄筆を使って、刺客の語を藉り裏面からその様子を描出している。かつてこの劇を読んだとき、そこを大に面白く感じた事があるから、今その趣向をそのまま用いて・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・を書かせ、公爵近衛文麿の戦争をけしかける論文。今ジェネヴで「泥棒にも三分の理」にさえならぬ図々しい屁理屈をこねている日本帝国主義の三百代言松岡洋右の提灯もちなどとともに、大衆を犠牲として恐慌を切りぬけようとする支配階級帝国主義戦争強行のチン・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・スウェーデンの若い女王クリスチナがスペインから王の求婚使節になって来たある公爵だかと、計らず雪の狩猟の山小舎で落ち合い、クリスチナが男の服装なのではじめ青年と思い一部屋に泊り、三日三晩くらすうちクリスチナが女であることがわかり互に心をひきつ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ロシアの歴史的なアナーキストであり、地質学者でもある公爵ピョートル・クロポトキンが一九〇一年に、ボストン市で「ロシア文学の理想と現実」という講演をやったことがあった。そのときクロポトキンは、ツルゲーネフの諸作品の重要なモティーヴが殆ど皆恋愛・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
出典:青空文庫