・・・ こうした写真は、公開したもおなじである。産の安らかさに、児のすこやかさに、いずれ願ほどにあやかるため、その一枚を選んで借りて、ひそかに持帰る事を許されている。ただし遅速はおいて、複写して、夫人の御人々御中に返したてまつるべき事は言うま・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ 正倉院の御物が公開されると、何十万という人間が猫も杓子も満員の汽車に乗り、電車に乗り、普段は何の某という独立の人格を持った人間であるが、車掌にどなりつけられ、足を踏みつけられ、背中を押され、蛆虫のようにひしめき合い、自分が何某とい・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ 今だから、こんな話も公開できるのですが、当時はそれこそ極秘の事件で、この町でこの事件に就いて多少でも知っていたのは、ここの警察署長とそれから、この私と、もうそれくらいのものでした。 ことしのお正月は、日本全国どこでもそのようで・・・ 太宰治 「嘘」
・・・私たち不勉強の学生たちを気の毒に思い、彼の知識の全部を公開する事は慎しみ、わずかに十分の三、あるいは四、五、六くらいのところまで開陳して、あとの大部分の知識は胸中深く蔵して在るつもりでいたのだろうけれども、それでも、どうも、周囲の学生たちは・・・ 太宰治 「佳日」
・・・こんどそれを葉山さんのサロンで公開するんだそうだ。所謂、お友達、を集めてね。ところが、その愚劣な映画の弁士を勤めて、お客の御機嫌を取り結ぶのが、僕の役目なんだそうだ。」「それあいい。」私は、大声で笑ってしまった。「いいじゃないか。北海道・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・これが一日ベルリンのフィルハーモニーで公開の弾劾演説をやって無闇な悪口を並べた。中に物理学者と名のつく人も一人居て、これはさすがに直接の人身攻撃はやらないで相対原理の批判のような事を述べたが、それはほとんど科学的には無価値なものであった。要・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・そしてそこで始めて、多数の公開観覧所が卑猥なものやあくどい際物で堕落し切っているのに対して、道徳的なものをもって対抗させる機会を得るだろう。教授用フィルムに簡単な幻燈でも併用すれば、従来はただ言葉の記載で長たらしくやっている地理学などの教授・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 幻燈というものが始めて高知のある劇場で公開されたのはたぶん自分らの小学時代であったかと思う。箸と手ぬぐいの人形の影法師から幻燈映画へはあまりに大きな飛躍であった。見て来た人の説明を聞いても、自分の目で見るまでは、色彩のある絵画を映し出・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・若干の道徳学者が人道論を持ち出して映画の公開だけは禁じられるであろう。 チンパンジーは人間とはちがって動物だという。これは動物学者が人為的に勝手な理屈から割り出してきめた分類によるからである。西洋人も日本人も同じ人間だという。しかしA博・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・のフィルムを撮って露都で公開したとき、猫の額のような稲田の小区画に割拠して働く農夫の仕事を見て観衆がふき出して笑ったという話である。それを気にして国辱と思っている人もあるようである。しかし「原大陸」の茫漠たる原野以外の地球の顔を見たことのな・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫