・・・を求めねばならぬ所以であり、他人の天命を完うするとともに、自己の天命を完うするという共存共栄の道が実践的には矛盾と撞著を生ずる故、その場合の行為選択の標準がなくてはならない。他人の家の火災と、自分の入学試験の受験とがぶつかったとき、いずれを・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・「共栄」を支持せよ。信ずべき道、他に無し。 甘さを軽蔑する事くらい容易な業は無い。そうして人は、案外、甘さの中に生きている。他人の甘さを嘲笑しながら、自分の甘さを美徳のように考えたがる。「生活とは何ですか。」「わびしさを・・・ 太宰治 「かすかな声」
・・・ 今日の世界大戦の課題が右の如きものであり、世界新秩序の原理が右の如きものであるとするならば、東亜共栄圏の原理も自ら此から出て来なければならない。従来、東亜民族は、ヨーロッパ民族の帝国主義の為に、圧迫せられていた、植民地視せられていた、・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・ひきつづいて超国家主義の大東亜共栄圏の観念にならされた。こんにち、かつての大東亜圏の理論家のあるものは、きわめて悪質な戦争挑発者と転身して、反民主的な権力のために奉仕している。「プロレタリア文学における国際的主題について」は、それらの問・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ お節は、筋がつれたのだと云って居るけれ共栄蔵はもっと倍も倍も重く考えて居た。 亀の尾を打った者は、打ち様によって死んで仕舞う位だからきっと、躰を動かす働きが頭の中から悪くなってしまったのだろうと思った。 盲人だと云ってもいい位・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・一億一心、八紘一宇、聖戦、大東亜共栄圏というような狂信的用語が至るところに溢れた。文学はこれらの言葉の下に埋没した。この緊迫した状態のもとで宮本の公判がはじまった。当時宮本は公判廷に出ても席に耐えないでベンチの上に横になる程疲労していた・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫