・・・ 自分の意志を苅りこまれ、たゞ一つの殺人器のようにこき使われた彼等は、すべての希望を兵役の義務から解き放された後にかけている。彼等はまだ若いのだ。しかし、そのすべての希望も、あの煙と共に消えなければならない。兵士達には、林の中の火葬の記・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・私のような兵役免除の丁種が、帝国軍人の妻たる者の心掛けを説こうというのは、どう考えたって少し無理ですよ。 あれの家の前で署長と無言で別れ、私はあれの家の土間にはいって行きました。あなたがこれまで東京に永くいらっしゃったと言っても、やはり・・・ 太宰治 「嘘」
・・・元気者ではあるが年とった者ばかりの家へ、極若い男は兵役前という夫婦が加ったから、生活は華やかになった。勇吉もおしまも、老年の平和な幸福が数年先に両手を拡げて待っていると思った。村の者も、それを当然としてうらやんでいた。ところが、ものは順当に・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・学校を出る、すぐ兵役の義務に服する、そのとき既に友達は八方に散るのである。三年ぐらいはたちまちその条件のうちで経過する。その三年間就職しつづけた人々と、新たにそれから後に就職する人との間にはおのずから隔たりがあるのが普通である。安倍さんの青・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・この年のはじめ国民総動員が行われ十七歳以上を兵役に編入することにした。次第に破局に近づくけいれんがあらわれはじめた。弟の家族は疎開した。私が残った。八月にパリが陥落した。アンドレ・モーロワの『フランス敗れたり』が日本でひろく読まれたのは・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・そして、男が兵役につくのを当然とされているように女の職業経験がそれに対応するものとして見られるようになるかもしれない。社会的成員の条件の一つのように見られるのかもしれない。そして、それはそれでいいのだと思う。 けれども、常識というものが・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・ 兵役にしろ、大切な働きてを一年も二年もとりっぱなしで、オイチニ! オイチニ! とばかりやるし、本はろくなのがよめず、家業は忘れる。あとにのこって苦労するのはあなたのように、多くの場合女です。これもブルジョア社会のつらさです。 働く・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
出典:青空文庫