・・・頼光をはじめ、鎮西八郎、悪源太義平などの武勇に就いては知らぬ人も無いだろうが、あの、八幡太郎義家でも、その風流、人徳、兵法に於いて優れていたばかりでなく、やはり男一匹として腕に覚えがあったから、弓馬の神としてあがめられているのである。弓は天・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・兵法 文章の中の、ここの箇所は切り捨てたらよいものか、それとも、このままのほうがよいものか、途方にくれた場合には、必ずその箇所を切り捨てなければいけない。いわんや、その箇所に何か書き加えるなど、もってのほかというべきであろう・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 二 二千年前に電波通信法があった話 欧洲大戦の正に酣なる頃、アメリカのイリノイス大学の先生方が寄り集まって古代ギリシアの兵法書の翻訳を始めた。その訳は、人間の頭で考え得られる大概の事は昔のギリシア人が考えてしまっ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 五 昨夜古いギリシアの兵法書を読んでいたら「夜打ちをかける心得」を説いたくだりに、狗吠や鶏鳴を防止するためにこれらの動物のからだのある部分を焼くべしということが書いてある。お灸でもすえるのかと思う。この本の脚注に、・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・一つは自分の縄張うちへ這入って来て、似寄った武器と、同種の兵法剣術で競争をやる。元来競争となるとたいていの場合は同種同類に限るようです。同種同類でないと、本当の比較ができないからでもあるし、ひとつ、あいつを乗り越してやろうと云う時は、裏道が・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・ 文学の古典研究の陣立てに、こういう兵法のようなものを思い泛ばせるというのは、評論家である保田氏として誇るに足ることであるだろうか。 二三年前、文学における古典の摂取が云われはじめた時分は、プロレタリア文学運動の退潮を余儀なくさせた・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・ナポレオン戦史講義 騎兵の操兵法チェスのようにして そういう日課が習慣となって来た、 p.91―若い少尉のあらゆる感覚が鈍って来た ○ ――殆ど自分自身に対しても深いケンオを抱くようになっ・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・こうして自敬の念に基づく心構えが、やがて武道とか男の道とかの主要な内容になってくると、争闘の技術としての武道の意味はむしろ「兵法」という言葉によって現わされるようになっている。そこで、武道、男の道、武士の道などと言われるものは、自敬の立場に・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫