・・・ 将軍を始め軍司令部や、兵站監部の将校たちは、外国の従軍武官たちと、その後の小高い土地に、ずらりと椅子を並べていた。そこには参謀肩章だの、副官の襷だのが見えるだけでも、一般兵卒の看客席より、遥かに空気が花やかだった。殊に外国の従軍武官は・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・重い脚を引きずって、銃や背嚢を持って終日歩き、ついに、兵站部の酒保の二階――たしかそうだったと思っている――で脚気衝心で死ぬ。そういうことが書いてある。こゝでは、戦争に対する嫌悪、恐怖、軍隊生活が個人を束縛し、ひどく残酷なものである、という・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・日露戦争の遼陽攻撃の前に於ける兵站部あたりの後方のことを取材している。戦地へいった一人の兵卒が病気のため、遼陽攻撃が始って全軍が花々しく進撃するうちに、一人だけ苦しみながら死んで行く有様を描いて、いわゆる「自然主義風」に人生の意義を語ろうと・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・海城から東煙台、甘泉堡、この次の兵站部所在地は新台子といって、まだ一里くらいある。そこまで行かなければ宿るべき家もない。 行くことにして歩き出した。 疲れ切っているから難儀だが、車よりはかえっていい。胸は依然として苦しいが、どうもい・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・火野葦平が、文芸春秋に書いたビルマの戦線記事の中には、アメリカの空軍を報道員らしく揶揄しながら、日本の陸軍が何十年か前の平面的戦術を継承して兵站線の尾を蜒々と地上にひっぱり、しかもそれに加えて傷病兵の一群をまもり、さらに惨苦の行動を行ってい・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・なんにしろ、兵站にはあんまり御馳走のあったことはないからなあ。」 主人は短い笑声を漏らした。「君は酒と肉さえあれば満足しているのだから、風流だね。」「無論さ。大杯の酒に大塊の肉があれば、能事畢るね。これからまた遼陽へ帰って、会社のお・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫