・・・のみならず途中の兵糧には、これも桃太郎の註文通り、黍団子さえこしらえてやったのである。 桃太郎は意気揚々と鬼が島征伐の途に上った。すると大きい野良犬が一匹、饑えた眼を光らせながら、こう桃太郎へ声をかけた。「桃太郎さん。桃太郎さん。お・・・ 芥川竜之介 「桃太郎」
・・・そんな事より、恐るべきは兵糧でしたな。」「そうだってねえ。今じゃ笑いばなしになったけれど。」「余りそうでもありません。しかしまあ、お庇様、どうにか蚊帳もありますから。」「ほんとに、どんなに辛かったろう、謹さん、貴下。」と優しい顔・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・必ず相当の論拠があり、研究もあって、露西亜の兵隊が何万満洲へ繰出すうちには、日本ではこれだけ繰出せるとか、あるいは大砲は何門あるとか、兵糧はどのくらいあるとか、軍資はどのくらいであるとかたいていの見込は立てたものでありましょう。見込が立たな・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ガダルカナルの時でも 飛行機は足りない、兵糧は足りない、兵隊は足りない。乞食の戦争。「近代戦争からみると、日本は喜劇をやっていたようなものだ。そしてキ劇の犠牲になるようなことは 馬鹿馬鹿しい悲劇だったという気がしますね」・・・ 宮本百合子 「東大での話の原稿」
出典:青空文庫