・・・と忙しい中で閃と其様な事を疑って見たものだ。スルト其奴が矢庭にペタリ尻餠を搗いて、狼狽た眼を円くして、ウッとおれの面を看た其口から血が滴々々……いや眼に見えるようだ。眼に見えるようなは其而已でなく、其時ふッと気が付くと、森の殆ど出端の蓊鬱と・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・「決して其様ことはありません。僕はこれまで彼女に会いたいなど夢にも思わなくなりましたが、貴女には会いたいと思っていましたから……」「それではお目にかかる事が出来る縁を待ちましょうね。」「ほんとうに、そうです。貴女も今言ったように・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・「いいのよ、其様してお置きなさいよ、源ちゃん最早お寝み、」と客の少女は床なる九歳ばかりの少年を見て座わり乍ら言って、其のにこやかな顔に笑味を湛えた。「姉さん、氷!」と少年は額を少し挙げて泣声で言った。「お前、そう氷を食べて好いか・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・如何にも其様な悪びれた小汚い物を暫時にせよ被ていたのが癇に触るので、其物に感謝の代りに怒喝を加えて抛棄てて気を宜くしたのであろう。もっとも初から捨てさせるつもりで何処ぞで呉れ、捨てるつもりで被て来たには相違無いわびしいものであった。 少・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
出典:青空文庫