・・・君の作品の中に十九世紀の完成を見附ける事は出来ても、二十世紀の真実が、すこしも具現せられて居りません。二十世紀の真実とは、言葉をかえて言えば、今日のロマンス、或いは近代芸術という事になるのですが、それは君の作品だけでなく、世界の誰の作品の中・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・しかし、これら全部、娘なら娘としての生活の上に具現しようとかかったら、どんなに努力が必要なことだろう。お母さん、お父さん、姉、兄たちの考えかたもある。(口だけでは、やれ古いのなんのって言うけれども、決して人生の先輩、老人、既婚の人たちを軽蔑・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・女も人類のために貢献するために生きたいという希望、そのために知能をもゆたかにしたいという希望を抱いて努力している事実は、いわば地球の動きのようなもので、いつかはそれが承認され具現する可能に向って、今日の文化はジグザグなりに動いていると思う。・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・平凡な、人間性のよわい、自主性のかけた人物が、ある機構の特定の性格にしたがった廻転によって、ある場所におかれるとき、その人物は自分としてではなく、その機構そのものの本質を具現する典型となってあらわれて来ている。そして、悲劇もシェークスピアに・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・れるかということを一般人生の姿として冷たく、傍観的に観察している態度等は、この作者がロマンチストとしての抒情性と社会に対する自然主義的立場とを作家的稟質、社会所属の本質、過去の全閲歴の蓄積として一身に具現している興味ある見ものなのである。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 日本の女子にとっては、一層必要とされている経済や法律思想は、現在一般の婦人の常識と日常生活のうちにどこまで具現されているだろうか。 世界の国々ではどこでも、婦人の政治的な成長の第一歩が常に公民権の獲得からはじめられていることは周知・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
出典:青空文庫