・・・いずれも皆外国または内国の有名、無名の学者、詩人、議論家、創作家などである。そのいろんな人々が、また、その言うところ、論ずるところの類似点を求めて、僕の交友間のあの人、この人になって行く。僕は久しぶりで広い世間に出たかと思うと、実際は暗闇の・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・が、私はそれよりも、沖に碇泊した内国通いの郵船がけたたましい汽笛を鳴らして、淡い煙を残しながらだんだん遠ざかって行くのを見やって、ああ、自分もあの船に乗ったら、明後日あたりはもう故郷の土を踏んでいるのだと思うと、意気地なく涙が零れた。海から・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・もっとも、統計で見ると内国産棉実千トン弱とあるから、まだどこかで作っているところもあると見えるが、輸入数十万トンに対すればまず無いも同様であろう。 花時が終わって「もも」が実ってやがてそのさくが開裂した純白な綿の団塊を吐く、うすら寒い秋・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・ 次には内国の政治経済産業方面に関する記事でも、大多数の国民が一日を争うて知らなければならないものがどのくらいのパーセントを占めているかを考えてみなければならない。 全くとらわれない頭で冷静に考えてみた時に、これらの記事の大部分は、・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・明治十年に至って始て内国勧業博覧会がこの公園に開催せられた。当時上野なる新公園の状況を記述するもの箕作秋坪の戯著小西湖佳話にまさるものはあるまい。 箕作秋坪は蘭学の大家である。旧幕府の時開成所の教官となり、又外国奉行の通訳官となり、両度・・・ 永井荷風 「上野」
・・・外国商売の事あり、内国物産の事あり、開墾の事あり、運送の事あり、大なるは豪商の会社より、小なるは人力車挽の仲間にいたるまで、おのおのその政を施行して自家の政体を尊奉せざる者なし。かえりみて学者の領分を見れば、学校教授の事あり、読書著述の事あ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・その士気の凜然として、私に屈せず公に枉げず、私徳私権、公徳公権、内に脩まりて外に発し、内国の秩序、斉然巍然として、その余光を四方に燿かすも決して偶然にあらず。我輩は、我が政治社会の徳義をして先ず英国の如くならしめ、然る後に実際の政事政談に及・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 或はいう、王政維新の成敗は内国の事にして、いわば兄弟朋友間の争いのみ、当時東西相敵したりといえどもその実は敵にして敵にあらず、兎に角に幕府が最後の死力を張らずしてその政府を解きたるは時勢に応じて好き手際なりとて、妙に説を作すものあれど・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・疲れが出て、日本へ向って走っているのではなく、どこか内国旅行しているような呑気な気になってころがりつつ。 ――気をつけなさい。ヴャトカは日本人の旧跡だから。自分がトンマですりに会って、シベリア鉄道の沿線に泥棒の名所があるなんて逆宣伝して・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・というプロレタリア作家は、闘争の激化した現段階で帝国主義日本の革命的勤労大衆の前衛に課せられている任務は、広汎で具体的な帝国主義戦争反対の闘いであり、帝国主義戦争によって生じるあらゆる矛盾のモメントを内国的にはプロレタリア解放のために有利に・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
出典:青空文庫