・・・だから前回に述べたような現実の心づかいは実にやむを得ない制約なので、恋愛の思想――生粋精華はどこまでも恋愛の法則そのものに内在しているのだ。だからかわいたしみったれた考えを起こさずに、恋する以上は霞の靉靆としているような、梵鐘の鳴っているよ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・律動は本来時間的のものであって時間的に週期的な現象がわれわれ人間に生理的および心理的に内在する律動感に共鳴する現象である。空間的のリズムは、これから導出された第二次的のものであって、目が空間を探り歩く運動によってはじめて時間的なリズムに翻訳・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・それはそれとしても、ともかくも気象変化の週期性に反応し、あるいは共鳴するだけの週期性が内在するのでなければこういう現象は起こらないのではないかと考えられる。 岩塩の縞の数から沈積期間の年代の推算をした人もあるが、これにも多くの疑問が残さ・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 器物の美にはもちろんそれ自身に内在する美があるには相違ないが、それを充分に発揮させるためにはその器物の用と相関連したモンタージュの把握が必要ではないかと考えるのである。 赤楽の茶わんもトマトスープでも入れられては困るであろう。・・・ 寺田寅彦 「青磁のモンタージュ」
・・・大きな炎をあげて燃え上がるべき燃料は始めから内在しているのである。これに反してたとえば昔の漢学の先生のうちのある型の人々の頭はいわば鉄筋コンクリートでできた明き倉庫のようなものであったかもしれない。そうしてその中に集積される材料にはことごと・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・少なくもある点までは新聞の社会記事というもの自身に本質的に内在する元来無理な要求から来る自然の結果であるかもしれない。その上にかてて加えて往々記者の認識不足が不合理の上に不自然の上塗りをするのであろう。 映画の場合においてもカメラを向け・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・それには、この詩形が国語を構成する要素としての語句の律動の、最小公倍数とか、最大公約数とかいったようなものになるという、そういう本質的内在的な理由もあったであろうが、また一方では、はじめはただ各個人の主観的詠嘆の表現であったものが、後に宮廷・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・そうだとすれば、これだけの強勢な伝播と感染の能力を享有する七五の定数にはやはりそうなるだけの内在的理由があると考えるよりほかに道はないであろうと思われる。 要するに七五の定数律は人のこしらえたものではなくて、ひとりで生まれひとりで生長し・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・そういう外部の物理的化学的条件だけではなくて、もっと大切な各樹個体に内在する条件があるのではないかと素人考えにも想像されるのであった。もちろん生物学をよく知らない自分にはほんとうのことはわからない。 この銀杏でもプラタヌスでも、やはり一・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・換言すればその詩を味わう読者各自の能知に内在する、その原型の模型にどれだけ照応するかの程度によって各評価者の価値判断が極るのであろう。 以上のごとき立場から見てこれと反対な位置にあるものは、色々の事実や事件の平坦な叙述的描写を主調とした・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
出典:青空文庫