・・・半円形に並べられている議席はまだ空虚で、一段高くしつらえられた議長席のヨーロッパ風な背高椅子や、そのすこし下の左右に翼をはっている大臣席など出場を待たせる雰囲気を醸しながらステインド・グラスの格天井からさして来る曇った冬の日光の底に静まりか・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・境内の杉の木立ちに限られて、鈍い青色をしている空の下、円形の石の井筒の上に笠のように垂れかかっている葉桜の上の方に、二羽の鷹が輪をかいて飛んでいたのである。人々が不思議がって見ているうちに、二羽が尾と嘴と触れるようにあとさきに続いて、さっと・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・客間はたぶん十畳であったろうが、書斎の側だけには並び切れず、窓のある左右の壁の方へも折れまがって、半円形に漱石を取り巻いてすわった。客が大勢になっても漱石の態度は少しも変わらなかった。若い連中に好きなようにしゃべらせておいて、時々受け答えを・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫