・・・子供は六人あるが、夫婦円満だぞ。嘘だと思うなら、橋のそばの鍛冶屋の三郎のところへ行って聞いてみろ。かかの部屋はどこだ。寝室を見せろ。お前たちの寝る部屋を見せろよ」 ああ、このひとたちに大事なウイスキイを飲ませるのは、つまらん事だ!「・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・夫婦の仲も、まず円満、と言ってよい状態であった。一女をもうけ、玻璃子と名づけた。パリイを、もじったものらしい。惣兵衛氏は、ハイカラな人である。背の高い、堂々たる美男である。いつも、にこにこ笑っている。いい洋画を、たくさん持っている。ドガの競・・・ 太宰治 「水仙」
・・・るのでございますから、いまさら都合がどうのこうのと、もったい振っても、それは噴飯ものでございましょうし、また、私のようなものでも顔を出して何やら文化に就いて一席うかがいますと、それでどうやら四方八方が円満に治るのだから是非どうぞ、と頼まれま・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・家庭円満、妻子と共に、おしるこ万才を叫んで、ボオドレエルの紹介文をしたためる滅茶もさることながら、また、原文で読まなければ味がわからぬと言って自身の名訳を誇って売るという矛盾も、さることながら、どだい、君たちには「詩」が、まるでわかっていな・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・しかし自分が電車で巡り合った老子の虚無は円満具足を意味する虚無であって、空っぽの虚無とは全く別物であった。老子の無為は自覚的には無為であるが実は無意識の大なる有為であった。危険どころかこれほど安全な道はないであろう。充実したつもりで空虚な隙・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 何一つレコードを持たないような円満具足の理想国はどこかにないものかと考えることもある。 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・士のペテンにかけられて登場し、そうして気の毒千万にも傍聴席の妻君の面前で、曝露されぬ約束の秘事を曝露され、それを聞いてたけり立ち悶絶して場外にかつぎ出されるクサンチッペ英太郎君のあとを追うて「せっかく円満になりかけた家庭を滅茶滅茶にされた」・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・必然に成効するためにはすべての点に対する注意が円満に具足しなければならぬ。誠に簡単なような実験でもその成効を妨げるような条件は無数にあって、成効の途はただ一つしかない。少し油断をすると思いがけない掃除口から泥棒がはいるようなことになる。例え・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・ こんなふうであったから、従って夜はおそくまで、朝は早くから起床して勉強に取りかかるというような例はなく、それに私の家はごく平穏、円満な家庭であったから、いつでも勉強したいと思う時には、なんの障害もなく、静かに、悠乎と読書に親しむことが・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・夫の智徳円満にして教訓することならば固より之に従い、疑わしき事も質問す可きなれども、是等は元来人物の如何に由る可し。単に夫なればとて訳けも分らぬ無法の事を下知せられて之に盲従するは妻たる者の道に非ず。況して其夫が立腹癇癪などを起して乱暴する・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫