・・・と云いつつ、ロマン・ロランその他の前もっての忠言にかかわらず、その小冊子を三ヵ月に百五十版重ねさせた。「政治的に利用してあるパンフレットの如きは一部一法二五。十部十二法。百部百法。五百部四五〇法。千部七五〇法というような割引率で、数万を頒布・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 彼等は、書いてあることが下らなかろうが、支那人向きであろうが一向頓着せず、横文字の読めると云う嬉しさ珍しさに我を忘れて、この小冊子も読み耽っただろう。丁度、私共が十二三の頃、面白くもなければ、本当の意味もわからない西鶴や方丈記を、其等・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・一九四三年にモスクワで出版された文化紹介の冊子を見ると、オルガ・ベルホルツという女詩人の書いたものが載っていた。 侵略されたレーニングラード市民の記録である。彼女の写真がのっていた。薄色の髪の毛を簡単な断髪にして、黒っぽい上衣の胸に、彼・・・ 宮本百合子 「新世界の富」
・・・「この書を通読してまず感歎することは、宇宙の創造から一九三三年までの世界の歴史をかかる小冊子に記述しながら、決して無味乾燥な材料の羅列に終らせることなく、これを極めて興味ふかい物語に編みあげ、しかも、その中に烈々たる文化的精神を織りこん・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・藤村が日本におけるロマンティック時代の先達であって、しかもよく永く苦しい自然主義の時代を自己の文学的業績の集積によって押しとおし得た秘密は、案外にも、一つの小冊子である「千曲川のスケッチ」にこめられている作者の努力にかかっているのではないだ・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・著者はこの三百二十余頁の小冊子の中に、人間の能動的意志としての歴史を科学的に叙述しようと努力しているばかりでなく、それを「新しいヒューマニズムの観点からの叙述」とし、読者の知識慾に答えると共に人類の営々たる進歩のための努力、献身への共感を呼・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・はじめて小説は小説としての本質を具えるものであると説明しているのであるが、我々にとって興味ある事実は、この画期的意味をもった小冊子が当時の外国文学の潮流にのっとって著わされたに拘らず、バルザックの名には一字もふれられていないことである。・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・竜池は自ら津国名所と題する小冊子を著して印刷せしめ、これを知友に頒った。これは自分の遊の取巻供を名所に見立てたもので、北渓の画が挿んであった。 文政五年に竜池の妻が男子を生んだ。これは摂津国屋の嗣子で、小字を子之助と云った。文政五年は午・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・先生の日本哲学をかける小冊子を送らる。……元良先生を訪う。小生の事は今年は望みなしとの事なり」と記されている。多分東京大学での講義のことであろう。この学期から初めて講師になって哲学の講義を受け持ったのは紀平氏であった。わたくしたちは新入生と・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫