・・・遣られるが、他の者に祈られて狐が二匹室町御所から飛出したなどというところを見ると、将軍長病で治らなかった余りに、人に狐を憑けるなどという事が一般に信ぜられていたに乗じて、他の者から仕組まれて被せられた冤罪だったかも知れない。が、何にしろ足利・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・狐が化けるなどは、狐にとって、とんでも無い冤罪であろうと思う。もし化け得るものならば何もあんな、せま苦しい檻の中で、みっともなくうろうろして暮している必要はない。とかげにでも化けてするりと檻から脱け出られる筈だ。それができないところを見ると・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・おかげで僕たちが、ほら、いつか、冤罪をこうむった事があったじゃありませんか。あの階段の下には、もう一部屋あって、おかみさんの親戚のひとが、歯の手術に上京して来ていてそこに寝ていたのですね。歯痛には、あのドスンドスンもダダダダも、ひびきますよ・・・ 太宰治 「眉山」
・・・ これは少し冤罪であった。勿論この銀行員の風采は、伯爵中尉と比べることは出来ない。しかし世間並から言えば、かなりの男振りで、立派に通用するのである。 ポルジイは暇を遣るとき握手して遣ることは出来なかった。それは自分の手が両方共塞がっ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 木村が文芸欄を読んで不公平を感ずるのが、自利的であって、毀られれば腹を立て、褒められれば喜ぶのだと云ったら、それは冤罪だろう。我が事、人の事と言わず、くだらない物が讃めてあったり、面白い物がけなしてあったりするのを見て、不公平を感ずる・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫