・・・決してあの、唯今のことにつきましておねだり申しますのではございません、これからは茶店を預ります商売冥利、精一杯の御馳走、きざ柿でも剥いて差上げましょう。生の栗がございますが、お米が達者でいて今日も遊びに参りましたら、灰に埋んで、あの器用な手・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・何でも負債を返さないでは、あんまり冥利が悪いでないか。いや、ないかどころでない! そうしなけりゃ許さんのだ。うむ、お貞、どっちにする、殺さないと、離縁にする!」 といと厳かに命じける。お貞は決する色ありて、「貴下、そ、そんなことを、・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・ 商売冥利、渡世は出来るもの、商はするもので、五布ばかりの鬱金の風呂敷一枚の店に、襦袢の数々。赤坂だったら奴の肌脱、四谷じゃ六方を蹈みそうな、けばけばしい胴、派手な袖。男もので手さえ通せばそこから着て行かれるまでにして、正札が品により、・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・富有な旦那の冥利として他人の書画会のためには千円からの金を棄てても自分は乞丐画師の仲間となるのを甘じなかったのであろう。 この寛闊な気象は富有な旦那の時代が去って浅草生活をするようになってからも失せないで、画はやはり風流として楽んでいた・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
出典:青空文庫