・・・ そちらで着物はもう冬着ではむさくるしいでしょうか、まだ袷は早いかしら、夜具も、うすいのをこしらえてお送りいたしましょう、夜具は五月に入ってからでもよかろうと思います。スエ子のハガキ御覧になりましたか? では又。御元気で。[・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・それよりも、目前の一枚の冬着を、とはげしく求める感情もあるであろう。しかし、私たちは、よくよく思いひそめなければならないと思う。この二月の総選挙のとき、ある種の婦人たちは、参政権よりは、やすい薯の方がありがたい、と言葉に出していった。目の前・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・この男は、夏にある点呼の時にいつでも、厚い冬着を着て行って、湯をあびて帰って来るのが常だ。何故そんなひどい思をするのかときく人があると、「戦の時きあ、夏と冬の入りまじった時があるかんない、夏になったとて、衣裳換え出来ねえ時はあるし。・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫