・・・ 早生の節成胡瓜は、六七枚の葉が出る頃から結顆しはじめるが、ある程度実をならせると、まるでその使命をはたしてしまったかのように、さっさと凋落して行ってしまう。私は、若くて完成して、そして速かに世を去って行った何人かの作家たちと、この桃や・・・ 黒島伝治 「短命長命」
・・・君もまたクライストのくるしみを苦しみ、凋落のボオドレエルの姿態に胸を焼き、焦がれ、たしかに私と甲乙なき一二の佳品かきたることあるべしと推量したからである。ただし私、書くこと、この度一回に限る。私どんなひとでも、馴れ合うことは、いやだ。 ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
樹々の若葉の美しいのが殊に嬉しい。一番早く芽を出し始めるのは梅、桜、杏などであるが、常磐木が芽を出すさまも何となく心を惹く。 古葉が凋落して、新しい葉がすぐ其後から出るということは何となく侘しいような気がするものである。椿、珊・・・ 田山花袋 「新茶のかおり」
・・・こんなことを毎日くりかえしてものうい夏にそぐわぬ力のない日を送って居る内に、もう、桐の葉の一葉又一葉凋落の秋をさとすように落ちはじめた。「もう秋ですものネー、春の御宴の時からもう冬をこせば一年になりますもの」 人達は今更のようにこん・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫