・・・ 同時に多くのイズムは、零砕の類例が、比較的緻密な頭脳に濾過されて凝結した時に取る一種の形である。形といわんよりはむしろ輪廓である。中味のないものである。中味を棄てて輪廓だけを畳み込むのは、天保銭を脊負う代りに紙幣を懐にすると同じく小さ・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・そのうち愚図々々しているうちに、この己れに対する気の毒が凝結し始めて、体のいい往生となった。わるく云えば立ち腐れを甘んずる様になった。其癖世間へ対しては甚だ気きえんが高い。何の高山の林公抔と思っていた。 その中、洋行しないかということだ・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・藤村はおどろくばかり計画性にとんだ作家で、その自己に凝結する力は製作の態度から日常生活の諸相へまで滲み透っていた。藤村の生きかたでは、逸脱は或る意味で彼の人生にとって過誤であった。けれども秋声の場合には、過誤ではなく、彼のように生きることに・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・だが、一九四〇年代に、そのように消極的に凝結した悪の防禦の形は、すでに「東洋風」でも「アジア流」でもなくなっていた。「日本にしか見られない精神と行動との麻痺の形」となっていたのだった。中国の知識人をふくむ全住民は、日本軍の侵略に抵抗して各地・・・ 宮本百合子 「私の信条」
出典:青空文庫