・・・商売道具の衣裳も、よほどせっぱ詰れば染替えをするくらいで、あとは季節季節の変り目ごとに質屋での出し入れで何とかやりくりし、呉服屋に物言うのもはばかるほどであったお蔭で、半年経たぬうちにやっと元の額になったのを機会に、いつまでも二階借りしてい・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・「これほどの世間の重宝を、手ずからにても取り置きすることか、召使に心ままに出し入れさすること、日頃の大気、又下の者を頼みきって疑わぬところ、アア、人の主たるものは然様無うては叶わぬ、主に取りたいほどの器量よし。……それが世に無くて、此様・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・今では遠い停車場の機関車の出し入れの音が時として非常に間近く聞こえるといったような現象と姿を変えて注意されるようになった。たぬきもだいぶモダーン化したのである。このような現象でも精細な記録を作って研究すれば気象学上に有益な貢献を・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・籠の出し入れをする。しない時は、家のものを呼んでさせる事もある。自分はただ文鳥の声を聞くだけが役目のようになった。 それでも縁側へ出る時は、必ず籠の前へ立留って文鳥の様子を見た。たいていは狭い籠を苦にもしないで、二本の留り木を満足そうに・・・ 夏目漱石 「文鳥」
・・・弁当を出し入れする戸口のところに突立ったなりどうしても坐らず、グー、グー喉を鳴らしている。 どの監房でも横にはなっているがまだ眠り切らない。初夏に近い宵らしく下駄の音などが頻りに聞え、外で遊んでいる子供らの甲高い声もする。切れぎれにラジ・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫