・・・ と呟くがごとくにいいて、かかる時、かかる出会の度々なれば、わざとには近寄らで離れたるままに横ぎりて爺は去りたり。「千ちゃん。」「え。」 予は驚きて顧りぬ。振返れば女居たり。「こんな処に一人で居るの。」 といいかけて・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・蒲田で、澄子その他が麻雀をして遊んでいると、その遊戯を知らない何とか君という、ひどく太い眉毛の若者が傍のソファで仮睡をし、夢で女賊マジャーンに出会するという筋なのだが――マジャーンが、スワンソンの蜂雀通りの扮装でスクリーンの上に蜂雀通りの順・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・ 恐ろしい事にも度々お出会になった御方でございますわ。 私達の驚かない様にしずかにわけをお話しなさって下さいませな。 これだけの事を知って故を知らないのは尚恐ろしい気持がいたしますもの。老近侍 荷の勝ちすぎるお望みじゃ……。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫