・・・そうかと云ってこっちから出向くのも厄介である。そこで仕方がないから、籐の枕をして、また小説を読んだ。そうして読みながら、いつか午睡をしてしまった。 眼がさめると、階下に大野さんが来ている。起きて顔を洗って、大野さんの所へ行って、骨相学の・・・ 芥川竜之介 「田端日記」
・・・ ××大将は戦地へ出向く連中から、電報を御覧になって引還してお出でになって、私もその時お目にかかったがね。広い書院は勲章や金モールの方で一杯だ。そこへ私にも出ろと仰ゃって下さるんだけれど、何ぼ何でも状が状だから出る訳に行きゃしねえ。・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・村に置くには勿体もないほどであるけれ共、主だった事々が行われるにはいつも、県庁の役人が出向くのが常である。 とうに別格官幣大社になるはずではあるけれ共、資産のとぼしいばかりに今も尚、幾十年かたここに建てられたと同じ位に居なければならない・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫