・・・これらの事実は植物に関することであるが、しかしまた、日本国民を組成しているいろいろな人種的民族的要素の出所とその渡来の経路を考察せんとする人々にとってはこの植物界の事実が非常に意味の深い暗示の光を投げかけるものと言わなければならない。 ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・おはぐろのような臭気が車内にみなぎっていたが出所は分からない。乗客の全部の顔が狸や猿のように見えた。毛孔の底に煤と土が沈着しているらしい。向い側に腰かけた中年の男の熟柿のような顔の真ん中に二つの鼻の孔が妙に大きく正面をにらんでいるのが気にな・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・れをさかのぼって深い谷間の岩の割れ目に源泉を発見した場合にいわゆる源泉の探究はそれで終了したとしても、われわれはその泉の水が決して突然そこで無から創造されたものではなくて、さらに深く地下の闇の中にその出所を追究することができるということを知・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ 唖々子はかつて硯友社諸家の文章の疵累を指したように、当世人の好んで使用する流行語について、例えば発展、共鳴、節約、裏切る、宣伝というが如き、その出所の多くは西洋語の翻訳に基くものにして、吾人の耳に甚快らぬ響を伝うるものを列挙しはじめた・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・たとえば、各地方に令して就学適齢の人員を調査し、就学者の多寡をかぞえ、人口と就学者との割合を比例し、または諸学校の地位・履歴、その資本の出処・保存の方法を具申せしめ、時としては吏人を地方に派出して諸件を監督せしむる等、すべて学校の管理に関す・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・妓楼酒店の帰りにいささかの土産を携えて子供を悦ばしめんとするも、子供はその至情に感ずるよりも、かえって土産の出処を内心に穿鑿することあるべし。この他なお細かに吟味せば、蓄妾淫奔・遊冶放蕩、口にいい紙に記すに忍びざるの事情あらん。この一家の醜・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・かえりみて我が身の出処たる古学社会を見れば、その愚鈍暗黒なる、ともに語るに足るべき者なく、ひそかにこれを目下に見下して愍笑するのみ。その状、あたかも田舎漢が都会の住居に慣れて、故郷の事物を笑うものに異ならず。ますます洋学に固着してますます心・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・就中、周の封建の時代と我が徳川政府封建の時代と、ひとしく封建なれども、その士人の出処を見るに、支那にては道行われざれば去るとてその去就はなはだ容易なり。孔子は十二君に歴事したりといい、孟子が斉の宣王に用いられずして梁の恵王を干すも、君に仕う・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・すなわちこれ我輩が榎本氏の出処に就き所望の一点にして、独り氏の一身の為めのみにあらず、国家百年の謀において士風消長の為めに軽々看過すべからざるところのものなり。 以上の立言は我輩が勝、榎本の二氏に向て攻撃を試みたるにあらず。謹んで筆鋒を・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・が乱れとんで、出所も正体もわからないまま、五・一五、二・二六と人心をかきみだして行って、遂に、無判断無批判にならされた人民を破滅的な戦争に追いこんで行ったいきさつは、こんにちあらわれる二・二六実記と称するものをよんでさえ、よくうかがえます。・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫