・・・ と言懸けるのを、遮って、傾けたまま頭を掉った。「いや、三右衛門でなくってちょうど可いのだ、あれは剽軽だからな。……源助、実は年上のお前を見掛けて、ちと話があるがな。」 出方が出方で、源助は一倍まじりとする。 先生も少し極っ・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・でもね、おばけの出方には、十三とおりしか無いんだ。待てよ、提燈ヒュウのモシモシがあるから、十四種類だ。つまらないよ。」 わけの判らぬような事を、次から次と言いつづけるのであるが私は一切之を黙殺した。聞えない振りをして森を通り抜け、石段を・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・第六号所載、出方名英光の「空吹く風」は、見どころある作品なり。その文章駆使に当って、いま一そう、ひそかに厳酷なるところあったなら、さらに申し分なかったろうものを。わが儘という事 文学のためにわがままをするというのは、いい・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ こんなような考えから、私はいつぞや先ずこのXZ面の射影、すなわち唇の出方のいろいろと変る方だけを二、三十首の歌について画いてみた事がある。手近な歌集の中から口調のいいと思うのと、悪いと思うのとを選り分けて、おのおのに相当する曲線を画い・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・芸者、芸人、鳶者、芝居の出方、博奕打、皆近世に関係のない名ばかりである。 自分はふと後を振向いた。梅林の奥、公園外の低い人家の屋根を越して西の大空一帯に濃い紺色の夕雲が物すごい壁のように棚曳き、沈む夕日は生血の滴る如くその間に燃えている・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・芝居へ入って前の方の平土間へ陣取る。出方は新次郎と言って、阿久の懇意な男であった。一番目は「酒井の太鼓」で、栄升の左衛門、雷蔵の善三郎と家康、蝶昇の茶坊主と馬場、高麗三郎の鳥居、芝三松の梅ヶ枝などが重立ったものであった。道具の汚いのと、役者・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・葭簀ばりの入口に、台があって、角力の出方のように派手なたっつけ袴、大紋つきの男が、サーいらっしゃい! いらっしゃい! 当方は名代の三段がえし、旅順口はステッセル将軍と乃木大将と会見の場、サア只今! 只今! せり上り活人形大喝采一の谷はふたば・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ 本が出てそれをまず友達に送りたいと思うような、そういう本の出方はこの頃誰のところにもないらしい様子です。本屋の店頭には、割合お粗末なのがどんどん並べられているが、友達はそれをもらわないというようなのも現代風景です。 今日は一時間程・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 秋三は急に静な微笑を浮べた勘次のその出方が腑に落ちかねた。「安次、手前ここに構えとれよ。今度俺とこへ来さらしたら、殴打しまくるぞ。」 安次は戸口へ蹲んだまま俯向いて、「もうどうなとしてくれ。」と小声で云った。「当分ここ・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫