・・・数馬は御先代が出格のお取立てをなされたものじゃ。ご恩報じにあれをおやりなされいと言われた。もっけの幸いではないか」「ふん」と言った数馬の眉間には、深い皺が刻まれた。「よいわ。討死するまでのことじゃ」こう言い放って、数馬はついと起って館を・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ その後某は御先代妙解院殿よりも出格の御引立を蒙り、寛永九年御国替の砌には、三斎公の御居城八代に相詰め候事と相成り、あまつさえ殿御上京の御供にさえ召具せられ候。しかるところ寛永一四年島原征伐の事有之候。某をば妙解院殿御弟君中務少輔殿立孝・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・ さりながら一旦切腹と思定め候某、竊に時節を相待ちおり候ところ、御隠居松向寺殿は申に及ばず、その頃の御当主妙解院殿よりも出格の御引立を蒙り、寛永九年御国替の砌には、松向寺殿の御居城八代に相詰め候事と相成り、あまつさえ殿御上京の御供にさえ・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫