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・・・、小屋の正面に、鼠の嫁入に担ぎそうな小さな駕籠の中に、くたりとなって、ふんふんと鼻息を荒くするごとに、その出額に蚯蚓のような横筋を畝らせながら、きょろきょろと、込合う群集を視めて控える……口上言がその出番に、「太夫いの、太夫いの。」と呼・・・
泉鏡花
「国貞えがく」
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・・・ 昼間、里栄が、「今日出番どすさかい、是非来とおくれやっしゃ」と云った。桃龍も居合わせ、「きっとどっせ、好う好う左の花道見といやっしゃ」と云ったが、自分一人になった時、「ほんまに間違えてお座りやしたらあきまへんえ、左・・・
宮本百合子
「高台寺」