・・・あとで何膳ずつかに分ける段になると、その漆臭いにおいが、いつまでも手に残ったので閉口した。ちょっと嗅いでも胸が悪くなる。福引の景品に、能代塗の箸は、孫子の代まで禁物だと、しみじみ悟ったのはこの時である。 籤ができあがると、原君と依田君と・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・ 私の考えるところによれば、おのずから芸術家と称するものをだいたい三つに分けることができる。第一の種類に属する人は、その人の生活全部が純粋な芸術境に没入している人で、その人の実生活は、周囲とどんな間隔があろうと、いっこうそれを気にしない・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・ 何も、肯分けるのでもあるまいが、言の下に、萩の小枝を、花の中へすらすら、葉の上はさらさら……あの撓々とした細い枝へ、塀の上、椿の樹からトンと下りると、下りたなりにすっと辷って、ちょっと末を余して垂下る。すぐに、くるりと腹を見せて、葉裏・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・――そこへ、両手で空を掴んで煙を掻分けるように、火事じゃ、と駆つけた居士が、(やあ、お谷、軒をそれ火が嘗と太鼓ぬけに上って、二階へ出て、縁に倒れたのを、――その時やっと女中も手伝って、抱込んだと言います。これじゃ戸をしめずにはおられますまい・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・「あなたのおとッつさんが、いくらやかましくいっても、二人を分けることはできないさ。いよいよ聞かなけりゃ、おとよさんを盗んじまうまでだ。大きな人間ばかりは騙り取っても盗み取っても罪にならないからなあ」「や、親父もちょっと片意地の弦がは・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・震災後は働きたいにも仕事がないと言って救いを求めるもの、私たちの家へ来るまでに二日も食わなかったというもの、そういう人たちを見るたびに私は自分の腰に巻きつけた帯の間から蝦蟇口を取り出して金を分けることもあり、自分の部屋の押入れから古本を取り・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・を三と四に分けるか二と五に分けるかというような自由があるのでそれらのコンビネーション、パーミュテーションでかなり複雑な変化が可能になる。 しかし、この要素は最も純粋な音楽的の要素であってこれを研究するには勢い広く音楽やまたあらゆる詩形全・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・それでこの二つの映画を見せて、そのいずれを選ぶかによって観客の定型を二つに分けることもできそうである。解析型と直観型あるいは構成派と印象派といったような二つに分けられはしないか。そう簡単にはゆかないまでも、少なくもこういうふうに考えてみるこ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 叙事と抒情とによって文学の部門を分けるのは、そういう形式的な立場からは妥当で便利な分類法であるが、ここで代表されているような特殊な立場から見れば、こういう区別はたいした意味を持たなくなる。 最も抒情的なものと考えられる詩歌の類で、・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ しかし、これだけでは鴉が音の拍節を聴き分けるという証拠には勿論ならない。第一、この映画を撮影している人々が画面の此方に大勢いるはずである。その人々の中であるいは指揮棒でも振って老人の歌の拍子をとっているコンダクターがいるかもしれないと・・・ 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
出典:青空文庫