・・・ このように、光の色を遮り分ける作用は、塵の粒が光の波の長さに対して、あまり大きくなればもう感じられなくなる。それで、遠景の碧味がかった色を生ずるような塵はよほど小さなもので、普通の意味の顕微鏡的な塵よりも一層微細なものではないかと疑い・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・むしろ進んで、暗合的なものと因果的なものとを含めた全体のものを取って、何かの合理的な篩にかけて偶然的なものと必然的なものとを篩い分ける事に努力したほうが有利ではあるまいか。そうして統計的に期待さるべき暗合の確率と、実際の統計的符合率とを対照・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・単に蒐集狂という点から見れば、此煙管を飾る人も、盃を寄せる人も、瓢箪を溜める人も、皆同じ興味に駆られるので、同種類のもののうちで、素人に分らない様な微妙な差別を鋭敏に感じ分ける比較力の優秀を愛するに過ぎない。万年筆狂も性質から云えば、多少実・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・若い女性たちの中に、この頃、はっきりこういう危険な状態を見分ける鑑識ができてきた。一見ささいなこの実力こそ私たちが大きい苦痛と犠牲を払って進んできた一歩前進の最もたしかな収穫であると思う。若い女性たちは自分もその一人としてきょうの人生を歩い・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・――職業組合がモスクワじゅうの劇場の切符を労働者に分けるんだ。五月二日、モスクワじゅうの数万人の労働者が、昼間はのんびり散歩して、夜は芝居を観る。これは、小さなことか? ――……あんまり感動させてくれるなよ。――ふだんは、どんなんだろう・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・文学よりも音楽は技術が特殊で、それは素人と玄人との差別をあんまりきっちり分けるから。 絵画の問題も仲々むずかしい。日本画は、そのもっている制約から今日の人民の生活の複雑な感情をうつし出すに困難であるし、洋画は文学のように誰でも新聞小説を・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・ 徳永直が、例の二つの黒い鼻の穴で階級を嗅ぎ分けるというような恰好で、熱心に委員橋本英吉の報告をきいている。「肩を聳した」小林多喜二がいる。煙草にむせて苦しそうに背中を丸めて咳きながら、黒島伝治が議事録に何か細かく書きこんでいる。男の子・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・この中にアダムとエヴァがいるが、お前はどこで見分けるかい?」 ゴーリキイを、散々卑猥な説明で悩してから爺は教えた。「つまりはお前も馬鹿な小僧さんだね。アダム、エヴァは生れた人間じゃなくて、造られた人だから、臍が無いじゃないか!」・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・米の不足を補うために、東京市は馬鈴薯の種をとりよせ、それを十坪以内の土地の利用者に限って分ける、という話である。その記事をよんだときも、何となし十坪以内の地べたを利用して植る、ということに、ぴったりしない感じがした。そういう面積を標準とした・・・ 宮本百合子 「昔を今に」
・・・神話と歴史とをはっきり考え分けると同時に、先祖その外の神霊の存在は疑問になって来るのである。そうなった前途には恐ろしい危険が横わっていはすまいか。一体世間の人はこんな問題をどう考えているだろう。昔の人が真実だと思っていた、神霊の存在を、今の・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫