・・・そこでみんな、ぞろぞろ、休所を出て、入口の両側にある受付へ分れ分れに、行くことになった。松浦君、江口君、岡君が、こっちの受付をやってくれる。向こうは、和辻さん、赤木君、久米という顔ぶれである。そのほか、朝日新聞社の人が、一人ずつ両方へ手伝い・・・ 芥川竜之介 「葬儀記」
・・・と、やがてその男の手に残った着物が二つに分れて一つはクララの父となり、一つは母となった。そして二人の間に立つその男は、クララの許婚のオッタヴィアナ・フォルテブラッチョだった。三人はクララの立っている美しい芝生より一段低い沼地がかった黒土の上・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ある者は赤い方をまっしぐらに走っているし、ある者は青い方をおもむろに進んで行くし、またある者は二つの道に両股をかけて欲張った歩き方をしているし、さらにある者は一つの道の分かれ目に立って、凝然として行く手を見守っている。揺籃の前で道は二つに分・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・それがある極まった事件なので、それが分かれば、万事が分かるのである。それが分かれば、すべて閲し来った事の意義が分かる。自己が分かる。フレンチという自己が分かる。不断のように、我身の周囲に行われている、忙わしい、騒がしい、一切の生活が分かる。・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・そうしてその思想が魔語のごとく当時の青年を動かしたにもかかわらず、彼が未来の一設計者たるニイチェから分れて、その迷信の偶像を日蓮という過去の人間に発見した時、「未来の権利」たる青年の心は、彼の永眠を待つまでもなく、早くすでに彼を離れ始めたの・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ やがて四阿の向うに来ると、二人さっと両方に分れて、同一さまに深く、お太鼓の帯の腰を扱帯も広く屈むる中を、静に衝と抜けて、早や、しとやかに前なる椅子に衣摺のしっとりする音。 と見ると、藤紫に白茶の帯して、白綾の衣紋を襲ねた、黒髪の艶・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・ その内、一本根から断って、逆手に取ったが、くなくなした奴、胴中を巻いて水分かれをさして遣れ。 で、密と離れた処から突ッ込んで、横寄せに、そろりと寄せて、這奴が夢中で泳ぐ処を、すいと掻きあげると、つるりと懸かった。 蓴菜が搦んだ・・・ 泉鏡花 「海の使者」
・・・ 聖書は来世の希望と恐怖とを背景として読まなければ了解らない、聖書を単に道徳の書と見て其言辞は意味を為さない、聖書は旧約と新約とに分れて神の約束の書である、而して神の約束は主として来世に係わる約束である、聖書は約束附きの奨励である、・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・ ほとんど途方に暮れてしまって、少年は、ある道の四つ筋に分かれたところに立っていました。そこは、町を出つくしてしまって、広々とした圃の中になっていました。そして、どの道を歩いていっても、その方には、黒い森があり、青々とした圃があり、遠い・・・ 小川未明 「石をのせた車」
・・・ あるときは、生徒たちが、二組に分かれて、競技をしたことがあります。そんな場合には、甲は赤い帽子を被り、乙は白い帽子を被りましたが、一方は、桜の木の右に、一方は桜の木の左にというふうに、陣取りました。そのとき、桜の木は悠々として、右をな・・・ 小川未明 「学校の桜の木」
出典:青空文庫