・・・ 日はすっかり暮れて、十日ごろの月が鮮やかに映していましたが、坂の左右は樹が繁っていますから十分光が届かないのでございます。上りは二丁ほどしかありません、すぐ武の家の前に出ました。家の前は広くなって樹の影がないので月影はっきりと地に印し・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・研究資金にあまり恵まれなかった彼は「分光器が一つあるといいがなあ」と嘆息していた。そうして、やっと分光器が手に入って実験を始めるとまもなく一つの「発見」を拾い上げた。それは今日彼の名によって「ラマン効果」と呼ばれるものである。田舎から出て来・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・しかし全体の合成的効果が灰色であるという事は、それを分光器で分析した時に色彩の現れないという事にはならないと同様に、日本画部に傑作がないという事はうっかり云われない。 かなりな作品があるのに観覧者の印象が空虚だとすれば罪は展覧会という無・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
出典:青空文庫