・・・しかしたしか太田水穂氏も言われたように、万葉時代には物と我れとが分化し対立していなかった。この分化が起こった後に来る必然の結果は、他人の目で物を見る常套主義の弊風である。その一つの現象としては古典の玩弄、言語の遊戯がある。芭蕉はもう一ぺん万・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・同時にその言葉の内容が特殊な分化と限定を受ける。その分化され限定された内容が詩形に付随して伝統化し固定する傾向をもつのは自然の勢いである。さらばこそ万葉古今の語彙は大正昭和の今日それを短歌俳句に用いてもその内容において古来のそれとの連関を失・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・デカルトではこれが分化されていたように見える。ガリレーはその二人の途中に立って悩んでいたのであろう。 この夢を見た夜は寝しなに続日本紀を読んだ。そうして橘奈良麻呂らの事件にひどく神経を刺激された、そのせいもいくらかあったかもしれない。臆・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・を積んで甲の説から乙の説に移りまた乙から丙に進んで、毫も流行を追うの陋態なく、またことさらに新奇を衒うの虚栄心なく、全く自然の順序階級を内発的に経て、しかも彼ら西洋人が百年もかかってようやく到着し得た分化の極端に、我々が維新後四五十年の教育・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・と一々明細に説明してやって、例えば東京市の地図が牛込区とか小石川区とか何区とかハッキリ分ってるように、職業の分化発展の意味も区域も盛衰も一目の下に暸然会得できるような仕かけにして、そうして自分の好きな所へ飛び込ましたらまことに便利じゃないか・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ 意識と云い、連続と云い、連続的傾向と云うとそのうちに意識の分化と云う事と統一と云う事は自然と含まっております。すでに連続とある以上は甲と乙と連続したと云う事実を意識せねばならぬ、すなわち甲と乙と差別がつくほどに両意識が明暸でなければな・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・イギリスの社会は周知のように、階級分化がすすんでいて、その社会独特の、平民的でありながら動かしがたい身分関係とそのしきたりにしばられている。市民としても文学者としてもいわば変り種であるローレンスは、そのようなイギリスの中流、上流社会に対して・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・作家の現実への精神の角度が、A子B氏なみのところに在って、文学性というものの目やすはそれを小説の形にかき得るという一つの技術上の専門的分化の範囲にあるように考えている今日の読者の気持に、作家としての苦悩がないかの如くである。 かえす・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・退嬰の姿におかれているのは、社会情勢によるとは云え、その出発に於て、プロレタリア文学の蓄積と方向とを否定しつよくそれと対立しつつ、悪化する情勢には受動的で、社会矛盾の現実は知識人間にも益々具体的な階級分化を生じつつあるという社会・文化発展要・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・それがおいおい発達して生産手段が複雑になり、社会生活が多様にかつ高まって来るにつれ、ついに今日見るような多種多様な専門に分化した文化をもつにいたっている訳である。 文化の問題についていう時、ある種の学者は、文化の地理的性質ということを非・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
出典:青空文庫