・・・最初の分岐点から最初の交叉点までの二つの道は離れ合いかたも近く、程も短い。その次のはやや長い。それがだんだんと先に行くに従って道と道とは相失うほどの間隔となり、分岐点に立って見渡すとも、交叉点のありやなしやが危まれる遠さとなる。初めのうちは・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・御存じの通り、この線の汽車は塩尻から分岐点で、東京から上松へ行くものが松本で泊まったのは妙である。もっとも、松本へ用があって立ち寄ったのだと言えば、それまででざっと済む。が、それだと、しめくくりが緩んでちと辻褄が合わない。何も穿鑿をするので・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・燈籠やら、いくつにも分岐した敷石の道やら、瓢箪なりの――この形は、西洋人なら、何かに似ていると言って、婦人の前には口にさえ出さぬという――池やら、低い松や柳の枝ぶりを造って刈り込んであるのやら例の箱庭式はこせついて厭なものだが、掃除のよく行・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・此所が私にとって、文芸の二者が分岐する道であると思われるのである。 即ち一は此の生活の根柢の何であるかを問わず、只管に日常生活の中に経験と感覚とを求めて自我の充実を希い、一は色彩的な、音楽的な生活の壊滅、死に対する堪えがたき苦悶を訴えん・・・ 小川未明 「絶望より生ずる文芸」
・・・たいていの妻子ある男性との結合は女性にとって、それが素人の娘であるにせよ、あるいはいわゆる囲い者であるにせよ、早晩こうした別離の分岐点に立たねばならなくなるのが普通である。そこには相互の間に涙の感謝と思い出と弁解とがあるであろうが、しかもこ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・横坑から分岐した竪坑や、斜坑には、あわてゝ丸太の柵を打ちつけた。置き場に困る程無茶苦茶に杉の支柱はケージでさげられてきた。支柱夫は落盤のありそうな箇所へその杉の丸太を逆にしてあてがった。 阿見は、ボロかくしに、坑内をかけずりまわっていた・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・手に取って見ると、白く柔らかく、少しの粘りと臭気のある繊維が、五葉の星形の弁の縁辺から放射し分岐して細かい網のように拡がっている。莟んでいるのを無理に指先でほごして開かせようとしても、この白い繊維は縮れ毛のように捲き縮んでいてなかなか思うよ・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・手に取って見ると、白く柔らかく、少しの粘りと臭気のある繊維が、五葉の星形の弁の縁辺から放射し分岐して細かい網のように広がっている。つぼんでいるのを無理に指先でほごして開かせようとしても、この白い繊維は縮れ毛のように巻き縮んでいてなかなか思う・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・それはとにかく、この胚子の壺の形がだんだんにどこまでも複雑な形に分岐し分岐して、それがおしまいにはクレオパトラになったり、うちの三毛ねこになったりするのである。クレオパトラでも三毛ねこでも畢竟は天然の陶工の旋盤なしにひねり出した壺である。こ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・薄く清潔な水の層を作っておいて、そうして墨を含ませた筆の先をちょっとそのガラス面の一点に触れると水の薄層はたちまち四方に押しのけられて、墨汁が一見かわき上がったようなガラスの面を不規則な放射形をなして分岐しながら広がって行く。その広がり方の・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
出典:青空文庫