・・・ 柳絮の飛ぶ時 花 城に満つ惆悵東欄一樹雪 惆悵す 東欄一樹の雪人生看得幾清明 人生 看るを得るは幾清明ぞ〕 何如璋は明治の儒者文人の間には重んぜられた人であったと見え、その頃刊行せられた日本人の詩文集にして何氏の題・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・同じ店に雇われていたものの中で、初め夜烏子について俳句のつくり方を学び、数年にして忽門戸を張り、俳句雑誌を刊行するようになった人があったが、夜烏子はこれを見て唯一笑するばかりで、その人から句を請われる時は快くこれを与えながら、更に報酬を受け・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・これら座右の乱帙中に風俗画報社の明治三十一年に刊行した『新撰東京名所図会』なるものがあるが、この書はその考証の洽博にして記事もまた忠実なること、能く古今にわたって向島の状況を知らしむるものである。明治三十一年の頃には向島の地はなお全く幽雅の・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・すると編中には二十年前始て博文館から刊行した「あめりか物語」と題するものが収載せられていたので、之がため僕は九月二十九日の朝、突然博文館から配達証明郵便を以て、改造社全集本の配布禁止の履行と併せて、版権侵害に対する賠償金の支払を要求せられる・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・余の見る所を以てすると、現今毎月刊行の文学雑誌に載る幾多の小説の大部分は、英国の『ウィンゾー』などに続々現れてくる愚劣な小説よりも、どの位芸術的に書き流されているか分らない。既にこの数年の間にかほど進歩の機運が熟するとしたなら、突然それを阻・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・その上去年の第一巻とこれから出る第三巻目は、先生一個の企てでなく、日本の亜細亜協会が引き受けて刊行するのだという事が分った。従って先生の読んでくれといった新刊の緒論は、第三巻にあるのではなくて、やはり第一巻の第一篇の事だと知れた。それで先ず・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・京都大学へ来てから、学校へ、ナヴィルの出版した Oeuvres indites de Maine de Biran[『メーヌ・ド・ビラン未刊行著作集』]を購入することができたので、晩年の Fondements de la psycholog・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・ 大戦直後に刊行された「もう一つのドイツ」も弟クラウスとの共著であるが、ここには、ナチス・ドイツ以外のもう一つのドイツのあることを訴えたものであった。ドイツの国民性を解剖し、ワイマール共和国の功罪を論じ、一知識人の日記の形でナチス運動の・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 魯迅は一九三五年ごろに、中国の新しい文化の発展のために多大の貢献をした一つの仕事として、ケーテ・コルヴィッツの作品集を刊行した。その中国版のケーテの作品集には、ケーテの国際的な女友達の一人であるアグネス・スメドレイの序文がつけられた。・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
「現代日本小説大系」が刊行される意味は、ただ日本の近代文学をもう一遍よみかえし、検討し、将来の文学に寄与するという風な、すべてのこれまでの刊行会の挨拶の範囲では、使命が果されないと思う。これはまじめに日本の社会の推移を基礎に・・・ 宮本百合子 「「現代日本小説大系」刊行委員会への希望」
出典:青空文庫